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よく笑うけれど、決して涙を見せない僕の彼女は、プロポーズをした時も、にっこり笑った。
ただ、指輪を受け取る前に僕に言った、「秘密があるの」

毎日が愛おしくも忙しくて、忘れかけていた昔の話。
今、妻の横には、生まれたばかりの赤ん坊が元気に泣いている。
そしてその横では、妻の母親が色とりどりの硝子の涙を流していた。

僕は、そっと、赤ん坊を抱き上げた。
その瞬間、僕は自分自身の細胞全てが満たされて生まれ変わるような、深い感動に包まれた。
何もかも、泣く顔すら愛おしい。頬を撫でながら、ふと「この子の涙は、硝子ではないのですね」と呟くと、
「まだ“家族”の自覚がねえからだろ」
ぶっきらぼうに答えた義父も、静かに硝子の涙を流していた。

義父の涙に、僕の胸もぐっと熱くなる。
妻が「あっ」と声を上げた。
僕の涙が、硝子になって落ちるのが見えた。
それを見た妻の目からも、硝子の涙がゆっくりと落ちた。
ファンタジー
公開:20/05/06 11:07

七下(ななさがり)

旧「はるぽこ」です。
読んでいただき、ありがとうございます。

400字制限の長さと短さの間で、いつも悶えています。
指摘もコメントも、いただけたらすべてを励みにします、大歓迎です。

【優秀賞】
渋谷コンテスト「夜更けのハイビスカス」

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