劇場家族

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仕事から戻ると、自分の部屋で明朝までの流れを確認する。
服を着替え、部屋から出ると夫の怒鳴り声が飛んできた。
「おい!遅いじゃないか、一体何をやってるんだ!飯もできてないし、どういうことだよ!」
今日の夫は機嫌が悪い。昨日の夫はとても優しくて、子どもに絵本の読み聞かせまでしてくれたのに。
「ご、ごめんなさい。すぐに準備しますから」
夫がチッと舌打ちをする。どうやら今晩は怯えて過ごさねばならないようだ。
まあいい。明日になれば、すべてリセットされるだろう。


ピピピ…ピピピ…

翌朝、アラームと共に私たちはそれぞれの楽屋へ引き上げる。
数年前に閉じたはずの劇場には、誰が用意しているのか毎晩さまざまな家庭を描いた台本が用意されていて、いつからかここで一夜限りの家族を演じることが楽しみになっていた。
楽屋を出ると、どこの誰とも知らない「夫」と会釈し合い、私たちはそれぞれの日常へ戻っていった。
ファンタジー
公開:20/05/06 06:42
更新:20/05/06 14:19

みきやん

普段は病院で働くひと。
のんびり妄想したい。

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