家族ポケット

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仕事から帰ってくると、妻が一人でテレビを眺めていた。
いや、よく見ると、胸にあるポケットから幼い次男が顔を出していた。
「おい、良太と圭子は出かけてるのか?」
と声をかけると、別のポケットから「ここに居るよ!」と二人が顔を出した。
「翔太はともかく、お前たちは出てきなさい!」
「いいじゃん別に」
「そーよ、そーよ!」
妻は勝ち誇った目つきで俺を見上げた。

どういう仕掛けになってるのか、妻のポケットには幼い次男に続き、小学生の長男、中学生の長女まですっぽりと収まっていた。
元々、子どもたちは妻に懐いてはいたが、このポケットのせいで家族内での俺の立場がますます弱くなった。
別に嫌われているワケではないが、とても居心地が悪いのだ。

俺は自分の書斎に引き篭もり、寝酒のウイスキーをグラスに注いだ。そしてコートのポケットを広げ、新しい家族に挨拶した。
そいつは可愛いらしい声で、にゃーと鳴いた──。
ファンタジー
公開:20/05/06 06:31

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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