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干ばつに悩むある国に、傘を売り歩く行商人の男が訪れた。

人々は雨を知らずに生きてきた。雨が降らない国では、さすがに傘は売れない。しかし男は機転を利かせ、どうにかして傘を売ろうと試みた。

「これは傘と呼ばれるもので、ファッションのために持つものです。ご覧ください。素敵でしょう」

男はみんなの前で傘を広げてみせる。初めて見る傘にみんな興味津々。色とりどりの傘を手渡すと、人々は歓喜の声をあげ、開いたり閉じたりしながら盛り上がった。

誰もが傘をファッションアイテムだと思い込み、街は傘を広げて歩く人で賑わった。ひと儲けできた行商人のバッグは札束でいっぱい。次の儲けを目指して、男はこの国を後にした。

そんなある日、雨乞いの祈りが天に届き、大雨が降ってきた。空から降り注ぐ大きな雨粒に人々は泣いて喜び、手に持つ傘を一斉に投げ捨て、恵みの雨を身体に浴びた。
その他
公開:20/05/06 08:17

ときわひでたか(常盤 英孝)( 大阪 )

《3分後にはもう、別世界。》
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