いしやきもち

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「いーしやーきーもちーぃ」
親父の無駄に良い声がこだましている。販売車の周りには人だかりができていた。 浮き足立って買いにいく同僚を尻目に、コーヒーを飲む。
「あの、一ついかがですか?」
急に話しかけてきたのは、4月に配属されてきた新人だった。こいつ、いつの間に買ったんだよ...。意外とミーハーなんだな。
断るのも面倒なので、言われるままに一つ食うことにした。 腹持ちするからまあいいか、その時の俺はのんきなものだった。 それからも女は、いしやきもちを持ってきた。差し出されるまま、もちを食う俺。 繰り返される日々。

変わったのは俺だった。
やきもち女が、俺以外にもちを渡すのを許せなくなったのだ。
なんということだ。してやられたわけだ。俺がやきもちを焼くなんて。

「本当に効き目があるなんて思わなかったんだよ。」

あっけらかんと笑う女は、来月俺の妻になる。
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公開:20/05/05 16:06

arupara( 東京 西部 )

田丸さんがご出演された『情熱大陸』であらためて空想の力を思い知らされ、読むだけじゃなく書いてみたくなりました。

書いた文章のイメージをイラスト化するのが最近の楽しみです。

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