何が入っているのかわからないレモン水

子供の頃、お風呂上がりには必ず母の作ったレモン水を飲むのが習慣だった。
冷たい水に、母が手づからレモンを搾る。
レモンと水だけよ、他に何も入れてないわと母は言っていたが、たぶんそれは嘘。
母のレモン水は、時にほんのり甘く、またある時にはかすかに苦かった。
レモン以外にも何かが入っている。
でもそれが何なのかがわからない。
大人になり、一人になった私は、その習慣を今も続けているのだけれど。
いつしか知ったのだ。
母の作ったレモン水には、本当にレモンしか入っていなかったってこと。
友達と喧嘩した日のレモン水はやたらと苦くて、友達と仲直りした日のレモン水はふんわり甘かったんだってこと。
風邪気味だった日は何の味もしなくて、憂鬱だった日にはやけにすっきり感じたってこと。
自分の気持ちや体調が、味を変えていたのだ。
母から教わったこの習慣で、私は今日も自分の心と体の声を聞いている。