逆立ち家族

　帰宅し玄関で逆立ちし、リビングに入る。父は倒立したまま新聞を読み、母は倒立で台所で洗い物をしている。僕も逆立ちスマホに余念がない。

　柴犬のマルが前足二本で立って言った。
「今度の休みは伊豆へ行こう」
「賛成!」父が喜びの声を上げる。
「でも売上げ業績を上げないと行けないぞ」と僕が釘をさす。そして母へも一言。
「今夜の味ではいい主婦とは言えないよ。もっと勉強しないと」
二人ともぶつぶつ口ごもりながら逆立ちのまま自分たちの部屋に入って行った。

　生まれてから、自宅とはこういうものだと最近まで思っていた。友達との話が合わず、世間とのズレに気づいた。
　家庭内序列はマルを頂点に僕、母、そして父の順。家で親から説教されることなんてない。束縛もなければ、虐待もない。自由かと言われれば、そうでもないけれど。自分のことはちゃんとしようと思っている。
　そして朝食後、玄関を出る。地に足つけて。