喫茶家族

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「最近、日本茶飲んだ?」可愛い子。これは逆ナンかと心踊らせたが、ただの営業だったらしい。茶室に連れていかれた。
畳に座って待ってると、その子が淡い緑の急須と湯飲みを丸盆に乗せて運んでくる。上京してから茶を淹れて飲むなんていつぶりだ?「紹介するね、父さんと母さんよ」さらりと彼女が指差したのは急須と湯呑み。「は?」と間の抜けたオレの声を無視し、「はい」と湯呑みが手渡される。持つとじんわり温かい。彼女が急須を傾ける。緑茶の匂い、続けて口に含んだ時の温度と味。オレはハッとする「親父は湯冷ましして淹れた茶が好きで、お袋は熱湯のが好きだったな。こっちはお袋の味」毎食後や農作業の合間に飲んだお袋の茶の味。「私の父さんと母さんも好みが違ってよく喧嘩してるけど、母さんがいつも勝つの。君に声かけてきたら、って言ったのも母さんなのよ」ね、家に連絡してみたら。そう言って彼女は湯呑みと急須とともに、ふっと消えた。
公開:20/05/05 23:01
更新:20/05/06 14:15

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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