耳を飛ばせば

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耳が空を飛んでいた。間違いなく人間の耳だ。くっついた左右の耳がヒラヒラと蝶ように僕の上を通り過ぎていく。
不思議に思い、僕は走って耳を追いかけた。耳は近所の公園に飛んでいくとベンチに座っていた男の前で二つに別れ、顔の左右にペタリとくっついた。
「今の何ですか?」
「あ、見るのは初めて?」
男は探偵だった。耳を飛ばすのは彼の特技で、離れた場所の会話を盗み聞きしているらしい。
「昔から『壁に耳あり』って言うだろ。あれは誰かの耳が壁にくっついて聞かれているから気をつけろという諺さ」
「僕にも出来ますか?」
僕は男にコツを教わった。まずは耳を自由に動かす練習から始めて、半年経つ頃にようやく耳を空に飛ばすことが出来た。
僕は大好きなクラシックコンサートに耳を飛ばして、タダで演奏を楽しんだ。
しかし、何度も繰り返していると耳が重くなり飛べなくなった。
いい演奏を聴きすぎて、僕の耳が肥えてしまったのだ。
ファンタジー
公開:20/05/05 16:45
更新:20/05/05 20:03

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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