美味しい切手

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「ん、何だこれ?」
封筒に切手を貼ろうと糊の部分を舐めていると、爽やかな風味が口中に広がった。
何とも不思議な味。
今度は別の切手を舌の上に乗せてみた。
「また違う味?」
両方とも、海の絵が描かれた美しい切手だったが、絵柄によって味が微妙に違うようだ。

ぼくは手紙を出すために駅前の郵便局に行った。
「あのう、こちらで購入した切手なんですがね、何か不思議な風味というか⋯⋯」
「おや、あれに気が付かれましたか?」
郵便局長らしき中年の男が、にこにこと笑いながら奥から出てきた。
「ええ、爽やかな風味というか」
「あはは、お客さんの買われたのは海のシリーズですね。これは爽快な夏の海をイメージした味付けです!」
切手売り場には、他にも春の草原や冬の山、または秋の野菜などのシリーズが置いてあった。
ぼくは全ての記念切手を購入した。

それ以来、ぼくは手紙を書くのがすっかり愉しみになってしまった──。
ファンタジー
公開:20/05/05 16:35
更新:20/07/01 12:18
3月9日「記念切手記念日」 ショートショートカレンダー

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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