あの川に蛍を、もう一度

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故郷の川から蛍がいなくなったのはいつからだろう。帰省の度に薄暗くなる川を寂しい思いで見つめていた。子供の頃見た、宝石が輝くような川がまた見たい。
(…そうだ)
僕は大学に戻り、研究に勤しんだ。

数年後、僕はまた川へと足を運んだ。そこはあの頃と違い夜にも関わらず観光客がごった返していた。
「一見なんの変哲もない川ですが…ご覧ください!たくさんの人です!」
リポーターの女性が囁き声でカメラに向かって話している。
「ではこのゴーグルを掛けてみましょう」
彼女はゴーグルを掛けると、さもと驚いてみせた。
「うわぁ、すごい!たくさんの蛍です!」

生態系を壊さず蛍を増やす。工学部だった僕はアバターホタルを増やすことを思いついた。開発に足りない資金は、クラウドファンディングで集めた。ゴーグルを通してしか見られない蛍。投資で増えた蛍。誰からともなく、蛍はこう呼ばれるようになった。

…トウシホタル、と。
その他
公開:20/03/01 19:49
スクー 投資蛍

ささらい りく

簓井 陸(ささらい りく)

気まぐれに文字を書いています。
ファンタジックな文章が好き。

400字の世界を旅したい、そういう人間の形をしたなにかです。

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