名前、譲ります。

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俺は何もかもを失った。
多額の借金を背負い、婚約者には逃げられ、絶望した。


名前、譲ります。

ある日、そう書かれた看板がぶら下がっている古く小さな店を見つけた。俺は迷わず店に入り、大きな本を抱えた小さな店主に聞いた。

「名前が貰えるって本当か?」
「ああ、本当だとも。
その代わり、今の名前に戻る事は出来ないよ」

僕は名前コレクターなんだよ、と言いながら俺に合う名前を探してくれた。これで俺の人生が変わるなら、何だってくれてやるさ。

店主に礼を言い、外に出ると、背中越しにあの時逃げられた彼女の声が聞こえた。

「永遠くん!
あっ、すみません、人違いでした」

ハッとして振り返ると彼女はそそくさと居なくなり、ガラス越しに俺の顔が見える。
そこにいたのは俺ではない誰かの顔だった。


名前、譲ります。
その看板の下には薄く掠れた文字の列。
顔、引き取ります。
その他
公開:20/03/01 13:24
更新:20/03/01 14:19

べね( 千葉 )

私の作品を読んで頂きありがとうございます。

趣味でショートショートを書いています。
だいたい即席で書いているので、手直しする事が多々あります。
多忙のため更新頻度はとても低いです、ごめんなさい。
星新一さんや田丸雅智さん、堀真潮さんの作品に影響を受け、現実感のある非現実的な作品を書くのが好きです。
最後の1文字までお楽しみください。

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