春が来た

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「はあるがきいたあはあるがきいたあ」
「カーッ!もう一回!」
可憐な少女の歌声を遮ったのは禅寺の和尚ではなく、自称元映画監督の町内会長だ。
コミュニケーションセンターでは、毎年四月に開催される桜祭りのリハーサルが行われていた。
「はあるがきいたあはあるがきいたあ」
「カーッ!もう一回!」
少女の夢はアイドルになることだった。
そのために幼稚園に上がる前から、毎週バレエとカラオケのレッスンに通っていた。
桜祭りのちびっ子のど自慢は彼女にとって初めての晴れの舞台だった。
少女の瞳は燃えていた。

この娘には何かある。
町内会長の元監督はとっくに無くしたと思っていた情熱に再び火が灯っているのを感じた。

「はあるがきいたあはあるがきいたあ」
「カーッ!もう一回!」
「ハイ!もう一回!」
「ダメ!もう一回!」
リハーサルはいつまでも続いた。
春が終わり夏から秋へ、そして冬がすぎまた春が来るまで。
その他
公開:20/03/02 12:56
更新:20/03/02 17:34

尋亀( ネオトキオ )

巣々木尋亀(すずきひろき)と申します。

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