朱欒がこわいわけ

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 ぼくは朱欒がこわい。
 ママが「ザボンをもらったのよ」って、病院から帰ってきたのは、二年前の冬だ。
 その夜、ザボンは朱欒と書くのだとパパが教えてくれた。ぼくはその漢字がこわくなりかけたから、名前をつけることにした。朱欒は三つあったから、さとる、ちさき、たいち、にした。
 ごはんを食べるテーブルに、さとるとちさきとたいちはいつも並んでいて、ぼくは心の中でいつもあいさつしていた。
 春になった日の朝、すっぱい香りがして、ちさきが潰れていた。ママは「ごめんね、落としちゃった」と、ちさきを三角コーナーに捨てた。ぼくが「ちさきかわいそう」って言ったら、ママが「ちさきって誰?」と聞いてきた。ぼくは仕方なく、さとるとたいちを紹介した。パパが起きてきて「食べ物にそんな名前をつけてはいけない」と言って、たいちを切って食べた。

 今、テーブルの上に、さとるがいる。
 そしてぼくは朱欒がこわくなったんだ。
その他
公開:20/03/02 09:57
こわいわけ

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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