トマト農家の苦悩

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お皿を見て、私達はため息を付いた。残された赤い実。今日もだめか。トマト農家に生まれたのに、娘のトマト嫌いは改善する気配がない。トマトと言えば、夏の暑い日に冷やして齧るのが楽しみだのに。

夏を過ぎ、いつしか銀杏の葉も落ちて雪が降り始めても、娘のトマト嫌いに変化はなかった。深く雪が積もったある日、俺は畑にぽつねんと取り残されたそれを見つけた。
「冬のトマトなんて」
とはいえ、捨てるには忍びなく俺はそれを口に運んだ。
「これは!」

俺はそれから新種のトマトづくりに勤しんだ。春が来て夏になり、しかし俺はそれを無視して秋から冬へと一巡した。その日はついにやってきた。娘がスキー合宿にいくというので、お弁当をもたせたのだ。
「気をつけて行ってこいよ」
娘は揚々と出かけた。その日の夜。
「お父さん、これ好き」
お弁当は空っぽだった。あの赤い実も含めて。

俺はそのトマトに「スキー」と命名した。
その他
公開:20/03/01 02:05
スクー トマトの品種はスキー

ささらい りく

簓井 陸(ささらい りく)

気まぐれに文字を書いています。
ファンタジックな文章が好き。

400字の世界を旅したい、そういう人間の形をしたなにかです。

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