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火打ち石のような出逢いだった。
私が彼を轢いたのは深夜の交差点。田んぼばかりの町。自動精米機の明かりと点滅する赤信号が、横断歩道に倒れた彼をシルクスクリーンのように照らしている。私はその景色を美しいと思った。閉じていた胸の花が熱をはらんで、私は運転席を花粉のように飛び出した。
照れているの?
彼は呻き声をもらすだけ。額から少し血が出ているけれどいい男だ。素敵なスニーカーを履いている。こんな夜中にジョギングなんて、私と同じように眠れないのかもしれない。
彼のスニーカーを脱がせて履いてみる。やはり温もりはない。
「この町にはいないと思ってた」
想像よりも低い声の彼。誰かに見つめられるのは何年ぶりだろう。視線を交わす喜び。
現世のパトカーが音もなく通過していく。
彼らに私たちの姿は見えない。加害者も被害者もない。震えて消える朝までの恋。
彼らは知らない。私たちの放熱が、この星を温めていることを。
公開:20/02/28 10:46
更新:20/02/28 11:04

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