藤色の嘘

3
4

 床屋に行くと緊張してしまう。子供のころ散髪中に居眠りしていた。ハサミの音がリズムよく聞こえ、いつも寝てしまう。

 大人になると居眠りはしなくなったが、店員からの質疑応答が気が抜けない。
 「今日はどれくらいにしますか?」
 「いつも通りで」「お任せコースで」と言ってみたいが、そんな勇気はない。
 「苦しくないですか?」の軽いジャブは「あ、はい」の回答でやりすごす。
 
 洗髪ラウンドでは、手際よく、シャワーで髪を流してくれる。
 「かゆいところはありますか?」
 いつもの「あ、はい」が使えない。
 上手な方は優しい手つきで、指の腹の部分を使って頭皮マッサージのような、心地よい時間を提供してくれる。「おかわりください」と言いたい。でも、下を向いたまま「大丈夫です」と弱々しく答えてしまう。

 床屋のグルグル回る看板はサインポール。
 赤+青+白=藤色になるので、私は『藤色の嘘』としたい。
その他
公開:20/02/27 23:52

如月一歩

やってみよう!一歩踏み出してみます。自分が読みたいものを書いていきます。短編はエブリスタでアップしています。
https://estar.jp/users/155249761
twitter @febippo

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容