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いまどき珍しいねんねこの背をぷっくらと膨らませた女性が、前を歩いている。襟首からは赤ちゃんの頭が見えていて、それは火がついたように泣きわめいている。
閑静な住宅街のだらだら坂を、女性は膝で拍子をとりながら、あやす様に上っていく。坂の上には安産祈願の神社がある。
赤ちゃんは疲れてきたのだろう。泣き声はだんだん弱まり、突っ張っていた腕や肩がぐったりとし、頭が次第にねんねこへと沈んでいく。
神社の石段の前で、女性は、ひょい。とジャンプした。
着地の衝撃で、赤ちゃんがズルリと、ねんねこの内側へ隠れた。そして、とぷん。という音が襟首から響き、甘ったるい匂いが漏れ出してきた。
女性はその場に立ち止まったまま、ぷっくらした背中を後ろ手に擦っているので、私は女性を追い越した。その時、女性が、こう囁いた。
「生まれてくる子の子守いたしましょうか?」
私はその甘ったるい息に陶酔し、頷いていた。
閑静な住宅街のだらだら坂を、女性は膝で拍子をとりながら、あやす様に上っていく。坂の上には安産祈願の神社がある。
赤ちゃんは疲れてきたのだろう。泣き声はだんだん弱まり、突っ張っていた腕や肩がぐったりとし、頭が次第にねんねこへと沈んでいく。
神社の石段の前で、女性は、ひょい。とジャンプした。
着地の衝撃で、赤ちゃんがズルリと、ねんねこの内側へ隠れた。そして、とぷん。という音が襟首から響き、甘ったるい匂いが漏れ出してきた。
女性はその場に立ち止まったまま、ぷっくらした背中を後ろ手に擦っているので、私は女性を追い越した。その時、女性が、こう囁いた。
「生まれてくる子の子守いたしましょうか?」
私はその甘ったるい息に陶酔し、頷いていた。
ホラー
公開:20/02/29 09:58
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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