乙女のワルツ

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「ママ、その歌やめてよ!」

引っ越し準備中のアタシは声を荒げた。

その歌のタイトルは乙女のワルツ。母が少女時代の歌でよく口ずさんでいる。

「歌詞が身に染みるのよね?」

図星。アタシには好きな人がいる。17歳の少女の心を捉えて離さない人は一学年上の先輩。アタシの初恋。

でも小心のアタシは「好き」が言えぬまま、間もなくこの街を離れていく。

「うるさいよママ」

バチーィン!

ふて気味のアタシの頬に飛んだ母の右手。

「引っ越し荷物に後悔を積むスペースはない!」

鬼の形相の母。

「辛いだけの初恋なんて歌の中だけでいい。親と同じ後悔を娘がするな!」

ママ怖すぎ…でも……

「当たって砕けても骨はママが拾う!自分の気持ち残らず伝えてきなさい!」

母の無限の愛情に弾かれたアタシは、家を飛び出すと泣き笑顔で坂道を駆け下り先輩の家に向かう。


先輩!アタシ絶対容赦しないからね!
その他
公開:20/02/28 21:01
更新:20/03/14 08:19

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