消失点のあちら側

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 君が遠ざかっていく。僕はその背中を見つめていることしかできないのが悔しくて、頭の奥がズキンとした。すると彼女の背はだんだん大きくなった。そして彼女の背が角を曲がると、夕空が視界を覆って、その前を、巨大な群衆が僕に近づきながら次第に小さくなった。ひどい眩暈に、僕はその場にしゃがみこもうとした。自分の靴がどんどん小さくなった。
 目蓋を閉じ息を整えていると「大丈夫ですか?」と、誰かが僕の肩に手をかけた。男の声だ。僕は笑顔をつくって目蓋を開けた。男はとても小さく見えた。
「え。ええ本当に」
「そうですか」と立ち去る背中は次第に大きくなり、巨大な雑踏の影にまぎれた。
 遠ざかる彼女に僕の視点が引っ張られて、消失点の手前にあった世界が、あちら側になったのだ。
 空はいつも一番遠く透明だった。遠くのものが大きく、近くのものが小さくみえてしまう僕の世界は、明るい空を背景とした影絵のように揺らいでいる。
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公開:20/02/26 16:16

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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