両想いのない世界

私は、両想いのない世界に住んでいる。

この世界には溢れんばかりの素晴らしい両想いがあり、その人たちは愛に満ち溢れ、互いを思いやり愛を感じているだろう。
しかし何でだろうか。
両想いというものがあると知った日、きっと自分には関係のない…違う、私には交わることない世界だと直感した。
実際自分が年頃になっても、そんな恋沙汰みたいなものは一切なかった。周りの人たちを羨ましいと思ったりもしたが、だからと言って無理に好きな人をつくりたいとも思わなかった。

そんなある日、私の目の前でそれは起こった。
歩行者信号が青になり渡ろうとしたその時、私の前を歩いていたカップルが車に跳ねられた。
…男性は即死。傍らで血塗れで倒れていた女性は男性の手を握ると、そのまま息絶えた。

ーーあの日から、ハッピーエンドの物語を私は、両想いのない世界で紡ぎ続ける。
他の誰かが…あの人たちも、いつか幸せになることを祈りつつ。