カメラを失くしたカメラマン小野田

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 昭和25年、北極圏探査船『北星丸』に小野田は写真家として乗船した。出航の際に記念すべき一枚目の写真を撮ろうと甲板から身を乗り出した彼は、あろうことか自分のカメラを海中に落してしまった。小野田は青ざめた顔で船長にカメラを探してもらいたいと懇願したが、予定を変えることはできないと断られ、北星丸はそのまま航海を続けることとなった。
 当時カメラは高級品で、小野田は唯一持参できた命より大切なはずのカメラを失ったのだった。他に役目のなかった彼は船内で肩身の狭い思いをし、炊事洗濯、どんな雑用でも引き受けるようになった。やがて彼が写真家であることを憶えている仲間はいなくなった。

 昭和45年、海底から一台のNikonのカメラが偶然にも発見された。そこから現像された一枚の写真に船員たちは涙した。港で北星丸を見送る二十年前の自分達の家族の姿が写っていたからだ。だが、一番泣いたのは小野田自身だったという。
青春
公開:20/02/24 19:25
全部作り話です!

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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