クモ型定規

妻が新しい定規を買ってきた。

なんでも、八本の節足を操って自由自在な曲線が描けるクモ型定規という文房具らしいのだ。
｢見て見て、こんな複雑な図形も思いのままよぉ！」
イラストレーターを生業とする妻には、よほど便利な道具なのだろう。
｢しかしどうも、見た目が⋯⋯よくないね」
その定規はクモ型というだけあって、どこか節足動物を彷彿とさせる不気味さがあった。
とくに八本の節足が気持ち悪いのだ。
｢あらそう？」
それから説明書を読むと、絶対に日に一度、専用の「餌」を水に溶き、全身にスポイトでかけてやるのを忘れないようにと太字で明記されてあった。
｢何だよ、餌って？」

しばらくの間、妻は毎朝クモ型定規に「餌」を与えていたのだが⋯⋯。数週間が過ぎ、案の定ずぼらな妻は定規に「餌」をやるのを忘れたらしい。
ああ、この天井裏をガサガサと這い回るクモ型定規は、一体いつになったら捕まえられることやら──。