漂流時間

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薄いガラス板がある。あるいは流れ着いた凍り水。私はそれを指で拾い上げた。
「これは思い出です」
三角標識のガイドがそういった。
「忘れ去られて、あまりの寂しさに凍り付いてしまった思い出たちの残骸ですよ。どんどん流れついて、砕けていくのです」
流木にも思い出が染み付いていた。凍てついた寂しさに、凍り付いている。
「忘れられた思い出は、みんなここにくるの?」
「さあ。ただ、ここにあるものはみんな、忘れてしまいたい物事ばかりです」
指で摘んでいた思い出が、音を立てて溶け始めた。シュワシュワと気泡が漏れ出し、私に話しかけてくる。
【ただ一つの髪飾りのために…】
【ただ一つの髪飾りのために、私は】
「おやめなさい。どこかの知らない誰かの哀しみに、飲み込まれてしまいます」
知らない誰か。そうだろうか。私はこっそり、ポケットに入れた。
「行きましょう」
三角標識のガイドに従って、私は砂浜を歩いた。
ファンタジー
公開:20/02/23 17:00
更新:20/02/23 20:24
大津海岸 ジュエリーアイス ダリの絵のような世界

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
a.co/1VIyjHz

『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

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