煙草の煙と雨音

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「私は産みたかったんです。

 あなたとの子を。」

外の雨音が強くなる。
彼に真正面からこの言葉を放ったのは初めてだろう。運転席に座る彼の横顔を見ると、端正な顔に厳しい表情が浮かんでいた。
無骨な手がゆっくりと煙草に伸びる。
「だから、いくら欲しいんや。」
何度も聞いた言葉。
何度も私の心を深く抉ってきた言葉。

彼の肩を掴み思い切り揺さ振りながら叫べたらと想像する。
そういう事じゃない。
あなたにこの苦しみを分かってほしい。
理解して欲しい。
それだけでいいんです。

心の中の思いが溢れてくる。
言語化が追いつかない。
嗚咽が止まらない。目も頬も熱く濡れる。
無理だこの人には、諦めなければ、と頭のどこかで声がする。
わかっている。
けれど

強く願う、誰かにこの涙を止める術を教えて欲しいと。
願いは現実にはならない。
煙草の煙と雨音だけが、いつまでも頭に響いていた。
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公開:20/02/22 12:08
更新:20/02/22 13:12

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