雪山の一夜

妙な事に気がついた。あれは10年前、大学の登山部での体験だ。

僕らは４人で雪山の登頂をめざし、吹雪に遭った。
進退きわまった時、山小屋を見つけ、そこで夜を明かした。
小屋の中央に小さな囲炉裏があり、そこに僅かな火を焚いた。４人で部屋の隅に一人ずつ座る。
眠れば寒さで凍死する。僕らは一人ずつ立って、部屋の中央の囲炉裏の火をかき混ぜ、隣の隅の友の所へ起こしに行く。
それを順番に繰り返して一晩中続け、遂に夜明けを迎えた。そして４人で無事に下山できた。

10年が経った今、あの夜の事を思い出し、妙な事に気づいた。
このやり方で、それを一晩中続ける事は無理なのだ。
立ち上がり囲炉裏の火を混ぜ、隣に行く。それを４回くり返すと、それで終わってしまうはずだ。

僕はゆっくり頭の中で思い返す。
そう、中央の囲炉裏で火を混ぜながら、部屋を見回した時。
部屋の隅にはいつでも、一人ずつ、全部で４人が座っていた。