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 窓の無い部屋から廊下へ出ると、廊下の両側には窓が並んでいた。
 僕は、窓から外を眺めているのが好きだった。それもなるべくなら、動いている景色を眺めていたかった。だからバスや電車が好きで、とくに電車が好きだった。電車の窓から眺める景色は横に長いからだ。バスや自動車の後部座席の窓から眺める景色は騒々しい。それに、正面の窓からの景色が、まるで僕を馬鹿にするみたいに目前までやってきては、身を翻してあざ笑うので、本当はバスや自動車は好きではない。飛行機には乗ったことがないけど、窓が側面にしかないのなら、きっと素敵だろう。
 だから僕は絶対、歩くときには前を向かない。
 廊下の右の窓からは教室が、壺の中にあるみたいに見えた。みんなが、正面の巨大で真っ黒な窓を白く塗りつぶす作業を、死んだように凝視していた。
 馬鹿だな。それは窓じゃない。本当の窓は横にあるのに。
 僕はそう思いながら廊下を歩き続ける。
その他
公開:20/02/21 09:26

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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