赤い風船

この間、妙なことを思い出した。
子どもの頃もらった赤い風船のことだ。
その頃僕はひとりぼっちでいつも悲しい顔をして歩いていたんだ。
そこへおかしなピエロがやって来て風船をくれた。
真っ赤なやつ。
知らない人に物を貰っちゃいけないって言われてはいたけど、ついね。
僕は赤い風船がひどく気に入っていつだって持ち歩いていた。
だって、あれを持っていると何だか妙に楽しい気持ちになってひとりでに笑っちゃうんだ。
赤い風船と一緒なら僕はどんな時も笑顔でいられた。

だけどあの風船はどうなったんだっけ。
そうだ、妹の髪飾りが引っ掛かって破裂したんだ。
その時、『smile!』っていう変な声が一緒に弾けたんだよね。
あれは一体何だったんだろう？
ただの空耳？
まさかピエロが吹き込んだわけじゃないだろうし…

思い出そうとすればするほど記憶のやつは逃げて行った。
もしかするとあれは夢だったのかもしれないなあ。