解けない。解かない。解きたくない。

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「うう…。」
思わず声が出てしまった。うめき声のようなものが、小さく。
時計の針の音がやけに響く。
目の前にあるのは、数式が書かれた1枚の問題用紙だ。
私は問題の下の空白をいつまで経っても埋めることが出来なかった。解けないはずがないのに。
焦りで、鉛筆を持つ手に力が入る。その右手が段々と痺れてきた。
時計の針は容赦なく進む。
先生が怪訝な顔をして私を見ていた。

簡単なこの問題を解いたらお終いだ。この数日、放課後の先生をせっかく独り占めしていたのに。
補習授業で先生は私の出来の悪さに悪戦苦闘していた。

でもね、出来が悪いのは先生だよ。
私を解けないのだから。

愛想つかされたくないから、私は問題を解いた。
正解だったのに、涙が出た。
先生は私の頭を撫でようとして、辞めた。
ふぅ、と息をついて教室を出ていく先生の後ろ姿は少し情けなかった。

緊張がまだ解けない。
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公開:20/02/21 22:13
更新:20/02/21 22:29

夜野 るこ

  夜野 るこ と申します。
(よるの)

皆さんの心に残るようなお話を書くことが目標です。よろしくお願いします。

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