御朱印センチメンタル

ここは67番札所
つまり88ヶ所巡りの67番目の寺だ
私はここで住職をしている

たいていは近所の爺さん婆さんが訪れるが、たまに観光客やお遍路さんが番号に沿ってやって来る
66番札所のあとに来たり、68番から遡ったりだ

彼らはスタンプラリーのように、御朱印を求める
私はお布施を受け取り、先代に習った書き方で御朱印を記し、スタンプを押す
多い日には300もの御朱印を記すが、ある日違和感に気がついた

『六十六番札所　並坂寺ぁ』

楷書の寺名のあとに『ぁ』やら『ぃ』やら、平仮名が書かれている
小さい『た』『な』『に』も散見された
66番札所から、何かのメッセージかもしれない
旅行者は書き損じとして受け取るだろうから、解読できるのは私だけだ

しばらくして、平仮名が規則正しくやって来ることに気が付いた
『ぁなたにぁぃたぃ』

誰だ？

66番札所を見に行くと、出家前に別れた妻が尼さんをしていた