あの頃の言葉を思い出す

「食べ物を粗末にすると、もったいないお化けが出るぞ」

　子供の頃に食事を残したり粗末に扱ったりすると、こうして怒られた人もいるのではなかろうか。
　しかし、ある程度の年齢になってしまうと「そもそもお化けなんていないし」なんて口答えをするかもしれない。実際にお化けが現れたとか襲われたという話を耳にしたこともない。

　意にも介さず好き放題に育っていっても、特に支障はきたすこともないだろうと思い込んでいたＲ氏は、食事においてお世辞にも行儀よくはなかったのだが、日常生活や社会生活を送るうえで際立った不都合に見舞われたこともなかった。
　このまま彼は子供の頃のあの言葉を思い出すこともなく一生を終えるかにみえたのだが、婚約者の両親に挨拶するときに蘇った。
　あまりの行儀の悪さで般若が２人ほど目の前に出現したのだ。