時計さん

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 この街には「時計さん」という不思議な人が住んでいる。全身隙間もないくらい色んな時計が付いていて、顔にも時計がびっしりだから、時計さんが人かどうかも、本当はわからない。
 背中に大きな振り子時計を背負って、振り子と反対に揺れながら、チックタックと歩いていく。
 半透明の少女が泣いていた。時計さんが砂時計の帽子を持ち上げて挨拶すると、少女は透き通った硝子の破片を見せた。
「落として割れちゃったの。私の夢」
 時計さんが帽子をくるりと逆さにして被り直すと、さらさらと時計の砂が落ち始めた。
「どんな夢?」
「一番になる夢」
 時計さんが硝子の破片を受け取ると、それはぜんまい式の懐中時計に変わった。
「毎朝一日分だけ巻きなさい」
 少女は時計を受け取ると、お礼を言って駆け出した。消えそうだった少女が離れるほどに輪郭を取り戻す。それを帽子の砂が落ち切るまで見送ると、時計さんは「おめでとう」と呟いた。
ファンタジー
公開:20/02/20 14:37
月の音色 月の文学館 時計のつぶやき

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