ぱんぱかぱーん

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深夜の分娩台は宇宙ステーションみたいだと夫が言った。
人里はなれた森の中にその産院はあり、この森にひとりで暮らす女医がたったひとりでやっている。
線香のような照明が四隅にあるだけの暗い分娩室はガラス窓に囲まれていて、大きな天窓からは点描のような無数の星が見えた。私と夫だけの音のないプラネタリウム。こちらが呼ばなければ女医がやってくることもない。
そしてぽろり。生まれたのは小さな星だった。
ゆるい磁石のような反発で私の掌に浮かぶ星。抱きしめようとしても、するりと逃げて触れることすらできない。
私から星への授乳は空中給油のようだった。慎重に乳首に接岸した星は現金をチャージするみたいにあっという間に離れた。そして私たちのそばを周回しながら眠り、はじめての朝を迎えた。
星から出ているへその緒を切ってもらおうと女医を呼ぶと、
「男の子ですね」
と、くす玉の紐のような男の子の証を、指でくいっと引いた。
公開:20/02/20 12:14

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