ハリとツヤとユズ油

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「女はハリとツヤが大事なのよ」
妻の口癖だった。
「ハリとツヤがあると綺麗に見えるの」
どんなに忙しくて子育てが大変でも、いつも綺麗に身なりを整えていた。
身支度の最後には必ず髪にユズ油をつけクシを通す。
それは子供たちが成人して家を巣立ち、私たち二人になっても続いた。

自分たちも歳を取り、後期高齢者と言われる年代になった頃だろうか。妻は次第に身体が弱りベッドに寝たきりになった。

「恭一さ~ん」
妻がベッドから私を呼ぶ。
「どうしたんだい?」
「あのね、夢を見たの。恭一さんと満開の桜の下を一緒にお散歩する夢」
「いい夢だね」
「ふふ、そうでしょ。暖かくなったら行きましょうね」
「ああ、そうだね」
私は妻の髪にユズ油をつけながら答える。
「はい少し黙って、紅を差せないから」
「はい」
私は仕上げに妻の唇に紅を差した。

これができるのはあと何回なんだろう。
私は、妻に隠れて涙した。
その他
公開:20/02/17 11:46
更新:20/02/18 09:53

晶馨

令和1年大晦日からこちらで投稿しております。
令和2年6月から5ヶ月ほどお休みしてましたが、11月に出戻ってきました。
投稿頻度は遅いですが、自分のペースでゆっくり頑張ろうと思ってます。
現在、自宅がWi-Fiじゃないので返信は遅れると思いますが、色々感想など教えていただけると励みになりますので宜しくお願いします^^

(アイキャッチ画像が登録しても登録してもいつの間にか勝手に消えまして、今回は以前のプロフィール文まで消えました。自分のタブレットがおかしいのでしょうか。少々いや、かなり手間取っております(-_-;))

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