頭突きの男

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 表面は可能な限り滑らかで一定の曲率をもつものが望ましい。内部は空洞でなければならず、衝撃で砕けてはいけない。基準はやはり頭蓋骨の額部だ。
 それぞれにスイートスポットがある。互いのその部分に衝撃を集中させたときの、変形の閾値を越えて凹みあう額と物体の刹那の抱擁感。それは刹那の抱卵なのだ。
 卵は割れやすい。豆腐はよくない。和紙のランプシェードはお勧めしない。硬球は縫い目が痛い。バットは難しい。砲丸とは分かち合えなかった。金属よりも石だが、ガラスは、曲率や空洞とは無関係に、厚みだけが重要だ。自動扉のガラスは素晴らしい。
 電柱より、某地下鉄の大理石の柱。打ちっぱなしのコンクリートよりも、エナメル塗装のセメント壁。ジッポより、デュポンの卓上ライター。床に額を打ちつける場合は、なんと言っても無垢のフローリングしかない。リノリウムでは鈍い。タイルならなるべく大きなもので。
 では、よい頭突きを。
その他
公開:20/02/15 12:16
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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