魔法のスプーン

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「このスプーンを大切に持ってなさい。辛い時、苦しい時、きっと貴方を笑顔にしてくれるわ。」
母はそう言って、銀色に輝く一本のスプーンをくれた。
東京の大学に行くために、単身上京する前の夜だった。
華やかな都会での学生生活は毎日が楽しかった。
しかし、就職に失敗。
一年間、アルバイトをしながら仕事を探す日々。
料理もしなくなり、コンビニ弁当ばかり口にしていた。
「何やってんだろ。」
その言葉を数え切れないほど口にした。
ふと、食器棚の隅に黒ずんだスプーンを見つけた。
母からもらったあのスプーンだ。
手に取って見ると、そこには薄汚れた顔が映っていた。
こんなの、私じゃない!
一度放り投げたそのスプーンを涙の染みたハンカチで必死に磨いた。
磨いて磨いて…
輝きを取り戻したスプーンに映っていたのは、満ち足りた顔だった。
今、私は娘に渡そうとしている。
私が救われたスプーンを、明日家を出る愛する娘に。
その他
公開:20/02/16 12:55

ハル・レグローブ( 福岡市 )

趣味で昔から物書きをのんびりやってます。
過去に書いたもの、新しく紡ぐ言葉、沢山の言の葉を残していければと思います。
音泉で配信されているインターネットラジオ「月の音色 」の大ファンです。

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