遠吠え

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 昔、月という星が空に浮かんでいたらしい。僕の祖先は夜に浮かぶ月に遠吠えして、己の居場所を確立していた。だが、地球の重力が小さくなると月は宇宙の彼方に飛んでいった。全部、幼少の頃に僕を捨てたクソ親父から聞いた話だ。

『月をつくる』

 毎月届く、その雑誌に付属される月の欠片を組むと、月の模型(1/1)を作ることができる。表紙に写るかつての月に心奪われ、僕は同棲中の彼女に頼んで講読の契約をした。
 
 それから毎月、玉ねぎの皮剥きを逆再生するように、掌サイズの月にパーツを付けていった。やがて模型が部屋を占拠する大きさになり、僕は引っ越しを彼女に提案した。

「仕事は頑張る。だから」
「そうだね。手狭になるし」

 彼女はお腹を擦った。そしてシーリングライトの灯りを反射する模型を見つめた。

「月がきれいだね」

 僕は爪を伸ばした両手を広げ、近所迷惑も顧みず、裂けんばかりの声で遠吠えした。
その他
公開:20/02/12 16:05
更新:20/02/17 20:09
スクー 手の中のクレーター

イチフジ( 地球 )

マイペースに書いてきます。
感想いただけると嬉しいです。

100 サクラ

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