タクシー強盗

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公園にタクシーを停めて休憩していると、後部座席にザリガニを手にした老夫婦が乗ってきた。
「犬吠埼まで」
ここは新潟。変な客だが長距離だ。心が躍る。夫は万札の束にザリガニをのせて、手荒な真似はしたくないと言った。
ラジオからは強盗の一報。彼らがやったのだろうか。そのザリガニで。
私は長岡から群馬に抜けるルートを選択した。ふたりの会話は決まって30分に1回。
「時間です」
妻の呟きに思案していた夫が言う。
「犬養毅」
妻は静かに頷く。また30分が過ぎて夫が言う。
「犬塚弘」
妻は「あぁ」と声を漏らした。
夫の小便は1時間に1度。妻は1時間半に1度。その合間を縫うようにふたりのプレイは続く。
「犬神佐清」
妻は至福の表情だ。
夜が明けて、車が犬吠埼に着くと、ふたりは太平洋に消えた。
私はトランクに詰めた運転手を解放した。
瀬戸カトリ犬。
自首する私の耳に、夫の最後の言葉が潮騒のように迫った。
公開:20/02/12 12:26
更新:20/02/18 14:38

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