ねえかまって

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げろげろ。げろげろ。
年老いた父親がふらふらとどこかへ行ってしまわないように、カエルの鳴き声がする靴下を履かせたものだから、朝も夜も私は、夏の田んぼに暮らしているような気がしている。
玄関も勝手口も簡単には開けられないように鍵をかけてある。家の至る所に観葉植物が青々と夏草みたいに育ち、私のためいきを新しい酸素に換えてくれる。
昼は母親が蝉のようによく喋って、歌いながら家事一切を引き受けてくれている。
昼寝から目覚めた幼い娘が、遊ぼう遊ぼうとトンボのようにとびまわる午後。
「ママは田んぼだからおばあちゃんと遊んでね」
カエルと蝉とトンボがいても季節はまだ春。娘とは遊べそうにない。
私にはヘソが5つある。
人間の体に意味のない部位はないと信じて生きてきたけれど、どうやらこのヘソには意味がない。ふさぎこむ私のヘソに、夫は稲を植えてくれた。
「ねえママと遊びたい」
早く鎌ってほしいのは私の方だ。
公開:20/02/13 13:37

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