アルコーブ・ランプ

僕の名前は『ジン』だ。
ご主人様の部屋、魔法のじゅうたん一枚分のアルコーブ。飾り棚に乗っかった、ランプの中に住んでる。
ランプの魔人が由来だと僕は思ってるけど、実際は知らない。ご主人様は、部屋にある物全部を名前で呼ぶ。小さい頃、自分の物には名前を付けなさいって教えられたから。
「昔は答えてくれたのよ……」
ランプを磨きながら、淋しそうにこぼす。
『ご主人様がくれたから、僕は『ジン』だよ』
僕の姿は見えないし、声も聞こえないんだな。ご主人様の『昔』に戻してあげられたら。本物の魔人みたいに、僕に魔術が使えたら。たくさん話が出来るのに。


答えを知る日は、突然やって来た。
「私の宝物。友人の『ジン』なの」
少し曇ったランプを磨きながら、楽しそうに笑った。
「よろしくな、ジン」
隣の知らない人も、楽しそうに笑った。
（良かったね。本物の魔人に出会えて）
曇りと一緒に、僕の声も拭き取られて消えた。