日記見直し本舗

「この日記だと、難しいですね」

僕は全国各地に支店を持つ「日記見直し本舗」の社員だ。この店で、営業成績ナンバーワンを誇っている。

女性客は「恋人と結婚するための10年日記」を持参していた。
あと３年で書き込み期間が満了する。学生時代から付き合っている彼は、結婚話を切り出してくれないらしい。

「彼が心変わりするリスクが大きすぎます」
にっこりと営業スマイルで話しかける。

「当社の掛け捨て日記になさいませんか。プロポーズを成功させれば、結婚費用は全額負担します」

うちの書き込み期間は１年だ。悪くない提案だと思う。

「よろしくお願いします」
客は契約書にサインすると、頭を下げて店を出た。

新人社員が不安そうに言った。
「成功したら、我が社は大損なのでは」
「大丈夫だ。ここを見てみろ」

約款には小さい文字でこう書いてあった。
「配当を受けた者は、弊社で結婚式を挙げるものとします」