苦悶の日々

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食肉牛の断末魔が聞こえた。
それも普通じゃない……人と違わぬ言葉だった。
「死にたくない」
「何をする。やめろ」
彼らの悲痛な叫びは、多くの人間には聞こえないらしい。
水揚げされた魚も酷かった。特に、網にかかった者たちの声は尋常ではない。耳を塞ぎたくなる。
不規則に織り成す阿鼻叫喚。
市場は彼らの苦悶の唸り声に包まれ、私の脳髄を侵し、背筋を逆撫でし、嘔吐を催してくる。
気付かれずに踏み潰してしまった虫の悲鳴も、否応なしに届いてきた。
肉は食べたくない。
魚なんてまっぴら御免だ。
日常的に地面を気にしながら歩くようになり、虫を見つけたら、立ち止まるか避けるようにしている。
おかげで、常に元気がない可哀想な人間とか、気が狂った変人と勘違いされるようになった。
行く先々の人間が優しい言葉をかけてきて、労るような視線を喰らわせてくる。
おい、貴様たち。
善意を振り撒く前に、星へ感謝を伝えてくれ。
その他
公開:20/02/09 13:49

加賀守 崇緒( 猫屋敷 )

気まぐれなハチワレ猫です。
頭抱えながら文章を考えてます。
スイカと芋と肉と魚に、お米とお酒、ブドウが好き。
よろしくお願いします。

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