アノヨルノネ色

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東京で一人暮らしを始めて2週間。引越しのダンボールの中から古びたクレヨンの箱を見つけた。幼い頃、祖父から貰った物だった。母がこっそり荷物に入れたのかも。
箱を開けた途端、独特の香りが漂い、昔の記憶が一気に蘇った。赤、青、黄色、群青色に深緑。どれも使いこんで短くて。その中でほとんど使われていないクレヨンがあった。
アノヨルノネ色…?
思い出した。この黒っぽいクレヨンは何故か何も色が出なかったんだ。
なんとなく手元にあった紙になぞると真っ黒な線が引かれた。
なんだ、書けるじゃないか。
僕は夜空を広げるようにクレヨンを擦った。すると、紙の中から低音で重厚な音の波が聞こえてきた。
その音色を知っていた。
田んぼに囲まれた実家の窓。街灯もない暗闇から押し寄せる数万匹のカエルの恐怖の鳴き声。
僕は紙を窓に貼りつけた。
途切れる事なく大合唱は続いた。
なぜだか今夜は、久し振りにぐっすりと眠れる気がした。
ファンタジー
公開:20/02/09 23:24

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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