紡香師(ほうこうし)漆拾肆~香月

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機械に繋がれ、心臓マッサージを受ける香月。規則的な電子音は、わずかな断続と平坦線に変わり、先生や看護婦さんが視界を忙しなく通過する。
香月は静かだった。いつもに増して静かだった。
追い出されずに済んで良かったと思った。生涯傍にいると約束したから。
眼を逸らさなかった。
一分。三分。……五分。
平坦線が動かなくなった。
落っこちて割れた『香月』の香りが、病室中に充満してた。

ねぇ香月。俺の自信作、気に入ってくれた?
――なんて。香月が素直に言うわけないか。


――――ピッ!と、苛立ったみたいに線が跳ねた。

香月の眉が顰み、嫌そうにむせた。
「……ぅぇ…」
掠れた声が呻いた。
声になった。
「…きも、ち、わり……寝て、らんね…」

香月が俺を見た。
駆け寄った。駆け寄って抱き締めた。
香月はゆっくり息をして、
「……あぁ、健介の匂い。オレの一番好きな匂い」
それから『おはよう』と笑った。
ファンタジー
公開:20/02/07 21:16
更新:20/02/23 17:48

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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