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 黄昏が私は好きだ。赤く沈む夕日を眺めながら、爪にネイルオイルをすりこむ。花の香りのついたそれは海外旅行先で買ったものだ。

 
 海辺で夕日を眺めた。誰か大事な。大事な人が隣にいた筈なのに。なにも思い出せない。



「誉志子」
「またその爪のやつの匂いをかいでるんだな」
「新婚旅行先で買ったんだ。おなじやつを絵奈が買ってきてくれたよ」
「半世紀も前のことだ」
「もう忘れたよな」
「俺のことも、絵奈のことも、孫たちのこともすべてみんな」
「お前には苦労をかけたね。あれは一時の気の迷いだった。」
「だからお前は俺のことも全部忘れちゃったのかな」
「ごめんな」
「ほら、夕日が綺麗だ。この病院はロケーションがいいから」
「海も見える」
「いろいろ思い出すな……」
「また来るよ」
「次はなにを持ってこようか」
「この黄昏にあった音楽でもかけてさ」
「じゃあな」
「……愛してるよ」
その他
公開:20/02/08 23:26

千億アルマ( Tokyo, Japan )

Senoku ALMA
https://note.com/shiro_mid

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