紡香師（ほうこうし）陸拾玖～茉莉花

六月、大安吉日。
病院の先生に付き添ってもらい、香月さんを『紡香堂』へ。
「おぉ～！こりゃ別嬪さんだ」（園長）
「本当に。健介は果報者ですよ」（お袋）
「……仮です仮。正式に返事してません」（香澄さん）
初花染めの小袖と、焦香の西陣紬。お袋が着付けてくれた香月さんは、化粧して髪も結って、最高に綺麗だ。

『人の大事な女かっ攫った挙句、結納口上言わせんのかよ』
苦笑いで悪態づいた香澄さんと、うちの親父は紋付き袴。
「幾久しく、お納め下さい」
「幾久しく、お受けいたします」
結納品は、茉莉花（まつりか）の花冠。合成では完全再現不可能とされる芳香を放つ、香りの王。花言葉は『幸福』『あなたに付いて行きます』――愛の証に恋人へ捧げる花。結婚式の花嫁を飾る花。

布団を囲んで写真撮影。香月さんは高校生くらい。眠ってる事を別にすれば、この上もなく幸福な記念写真。
順調に進んでる、今は希望を繋ぐしかない。