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川沿いの桜並木が今年も見事だ。あの人とは三年しか一緒にいられなかった。最後の日も桜が咲いていた。白い花びらがはらはらと頭上から降り注ぐ。今年ももう散ってゆくのね。
「僕ら、いつか一緒になろう」
果たされなかった約束。でもその約束があったから生きてこられた時もあった。
誰もいない右側を春風が吹き抜けてゆく。その少し埃っぽい匂いが、私の胸を突いた。懐かしい風にあの頃の風景がよみがえる。過去と現実が交錯する。
「どうか元気で」
あの時の言葉が聞こえた気がした。降ってくる花びらに手を伸ばす。桜は咲けば必ず散ってしまう。
あの人の輪郭がぼやけてゆく。緩やかに古くなってゆく。記憶という残骸。失ったのはもう七年も前のこと。
家に帰れば優しい夫と、ついこの間小一になったばかりの可愛い息子が待っている。私はいま幸せだ。
「おかえり、ママ!」
息子の笑顔が、どんどんあの人に似てくるの。
あの人を、愛してた。
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公開:20/02/08 12:00

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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