紡香師(ほうこうし)漆拾弐~万年香

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「ひょっとして、園長?」
「園長経由で、蜂谷香澄さんに」
すごく痛いけど、気持ちは静かだった。
「香澄さん責任感強いし、根が優しいから。前に結納式した時も、仮だぞって何回も。……あの時で一年半越してた。皆もそろそろ、内心思ってる。起きない香月さんを待ち続けて、人生終わらす気かって」
香月さんは、今も眠り続けてる。身体は成長して花開いたのに、目覚める気配がない。
「これで三年と伺いました。貴方の想いは、純粋で一途過ぎる。……皆さん不安なのです。もしこの先、香月さんを喪ったら、貴方はどうなるのか」
「月峰さん。マンネンロウ――ローズマリーの方ね、元々『万年香(まんねんこう)』だったって説もあるんす」
『万年朗』も死臭も消えた香月さんは、まろやかに甘い匂いがする。最後まで零にならなかった、香月さん本来の匂い。
「永遠に続く運命の匂い。それが俺にとって、香月さんなんすよ」
だから俺は、信じて待つ。
ファンタジー
公開:20/02/06 21:13
更新:20/04/02 12:16

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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