ビー玉の約束

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なにもたのしくない。かなしみでいっぱい。
なにもうれしくない。さみしさでいっぱい。
私が17の時にあなたがこれをくれた。

ビー玉を太陽の光にかざす。ラムネ色のビー玉の中に波しぶきみたいな透明な気泡と、風が見える。
ずっと空を飛んでみたいと思っていた。
私を抱きしめてくれる人は誰もいなかった。

そんな私の心をあなたは受け止めてくれた。
「ひとりで飛ぼうなんて思わないで。この命が砕ける時、一緒にあの空に行こう。僕らはずっと一緒。生きるのも、死ぬのも」
ビー玉は約束の印だった。

あの約束を私は守っているよ。あなたは守ってくれているのかな。
結婚後すぐに事故に遭って、病室に機械で繋がれてただ息をしているあなた。
ひとりで歩くのはもう疲れた。

ビー玉をあなたのてのひらに握らせた。
窓を開ければ春の風。
あなたの指先が微かに震えて、私は泣いた。
幸せを手にする旅がまた始まるのだと思った。
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公開:20/02/04 19:03
更新:20/02/04 21:38

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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