紡香師（ほうこうし）陸拾弐～瘴気

「クソガキが。何様のつもりだてめぇ」
「俺は俺っすよ。何様でもない。だけど、あんたに従う気もない」
寒い。見えない針が全身突き刺さって凍りそう。嫉妬なんて生易しいもんじゃない――淀んだ瘴気（しょうき）。吸い込んだだけで人間を腐らせる穢れ。
「誰が何て言おうと、俺は香月さんから離れない。生涯傍にいるって決めたんだ、最後の一瞬まで」
「ハッ！いい気になってんじゃねぇよ勘違い野郎が。だったら何でここに居んだよ、大事な香月放ったらかして。どうせ黙って来たんだろ」
嗤ってる。抱え込んで抑えに抑えた腹の中が、嗤いの形に歪んでる。
「なぁイヌスケ。とっくに判ってんだろほんとは？てめぇの行為は自殺ほう助だ。このまんまじゃ香月は死ぬ、意地張ってねぇで、素直に認めて中止しろ！！」
「出来ません」
「……あっそ。じゃいいや」
――ドツッ。脇腹にめり込んだ手。
黒い――ナイフの柄？
「てめぇが死ねば香月は助かる」